日本初のAIの法律「AI推進法」とは？罰則やChatGPTとの関係、今後の影響を徹底解説

2025年5月28日、日本で初めてとなるAIに特化した法律「AI推進法」が成立しました。

「AI推進法」は、政府主導でAI活用を本格化させる新たな枠組みですが、「罰則はない」「何が変わるのかわからない」と、SNSやメディアでは疑問や誤解も多く見られます。

この法律、ChatGPTユーザー、企業、教育関係者など、僕たち全員に深く関係してくる内容となっています。

この記事では、法律の難しい話を抜きにして、初心者にもわかりやすく「AI推進法の全体像と本当の影響」を解説します。

この記事を読むことで、以下のメリットがあります。

ChatGPTをはじめ、AIを使うすべての人にとって、「AI推進法」は今後の使い方・リスク管理・社会との向き合い方に直結する法律です。

これからの時代を安心して生き抜くために、AIを使うすべての人が知っておくべき実践的な知識を今すぐ手に入れてください。

AI推進法とは？背景と目的をわかりやすく解説

2025年5月28日、日本で初めて「AI（人工知能）」に特化した法律が成立しました。

正式名称は「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律案」、通称「AI推進法」です。

この章では、AI推進法とは何か？そしてなぜ今このタイミングで必要とされたのか？を初心者にもわかりやすく解説していきます。

日本初のAI特化法「AI推進法」とは？

AI推進法は、文字通り「AIの活用を推進すること」を目的とした法律です。

規制ではなく、開発と利活用の支援や体制整備を中心とした推進型の法制度であり、日本政府としてAI戦略を本格的に進めていくための「枠組みづくり」として整備されました。

この法律により、次の2つの大きな柱が制度として盛り込まれました。

これらは今後、AI技術を安全かつ有効に社会へ浸透させるための中核的な役割を担います。

なお、罰則がない点については誤解も多いですが、それは「何をしても自由」という意味ではなく、既存の法律（個人情報保護法や著作権法、刑法など）が引き続き適用されるためです（この点は第4章「罰則はあるのか？誤解されやすいポイント」で詳しく解説します）。

なお、実際の「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律案（AI推進法）」の全文を確認したい方は、以下の衆議院公式サイトからご覧いただけます。

「AI推進法」の制定の背景と目的｜なぜ今この法律が必要なのか

AI推進法が成立した背景には、世界的なAI活用の急拡大と、それに対する日本の遅れがあります。以下に具体的な状況を整理します。

このように、AIの利活用において日本は明確に後れをとっており、国家として早急な立て直しが求められていました。

これらを事前に把握・対策するためにも、国が主導する体制構築と社会全体への情報共有が必要とされていました。

このように、AI推進法は「罰則で縛る」のではなく、「国全体でAIの安全かつ積極的な活用を後押しするため」の法律です。

次のセクションでは、そのために設けられた「AI戦略本部」と「AI基本計画」について詳しく解説します。

AI推進法の主な内容と新設された「AI戦略本部」と「AI基本計画」体制

AI推進法の中心的な特徴は、「AI戦略本部」と「AI基本計画」という2つの新しい体制を明文化した点にあります。

この章では、それぞれの役割と目的、そしてこの法律が「推進法」として設計された理由について、わかりやすく解説していきます。

AI戦略本部とは？総理大臣をトップに設置

AI戦略本部は、AI推進法に基づいて新たに設けられる政府の中枢機関です。

この本部は、政府全体でAI政策を総合的かつ一体的に推進するための「司令塔」として機能します。これまでバラバラだった各省庁のAI関連施策をまとめ、方針の一元化と迅速な意思決定を可能にするのが目的です。

また、分野横断的なリスク（例：ディープフェイク、個人情報、倫理など）に対応するために、戦略本部が調整役として重要な役割を果たします。

このように、AI戦略本部は、日本のAI活用を「国家戦略として本格化させる中核組織」として設けられました。

AI基本計画とは？研究開発と活用の指針

AI基本計画は、AI推進法に基づいて国が策定する、AI技術の研究開発・社会実装に向けた中長期的な行動計画です。

これは毎年更新される性質のものではなく、社会・技術・国際情勢の変化に応じて随時見直しが行われ柔軟な戦略文書となる予定です。

この計画は、実際にどの分野にどれだけ重点的に取り組むかを決める「ロードマップ」として、企業や自治体、教育機関にとっても重要な指針となります。

また、今後はこの基本計画に基づいて、各省庁の施策が展開されるため、国内のAI推進の軸となる存在です。

「推進法」としての位置づけ｜規制ではない理由

AI推進法は、名前の通り「推進」を目的とした法律であり、「罰則を伴う規制法」ではありません。これは非常に重要なポイントです。

一部報道で「罰則なし」という表現が誤解を生んでいますが、実際には以下のような明確な理由があります。

代わりに、既存の法制度（個人情報保護法、著作権法、刑法など）で問題行為に対応できるという前提で、AI推進法はあくまで「政府による支援・調整・戦略策定」の枠組みとして整備されています。

このように、AI推進法は「技術革新の味方」であり、「政府が共に伴走する姿勢」を示す、前向きな法制度です。

内閣府が公表したPDF資料では、「AI基本計画」や「AI戦略本部」の具体的な体制が視覚的に整理されています。詳細な資料を確認したい方はこちらをご覧ください。

AIの悪用リスクと対応方針｜ChatGPTも対象？

AI推進法は推進法でありながら、AIの悪用によるリスクにも一定の対応方針を示しています。

この章では、近年特に懸念されているディープフェイクや人権侵害といった問題と、それに対して国がどう向き合っていくのかをわかりやすく解説します。

ディープフェイク・フェイク動画などの懸念

AIの進化によって、実在しない映像や音声をリアルに生成する「ディープフェイク」が急速に広がっています。特に問題視されているのが以下のようなケースです。

これらは深刻な社会問題となっており、ChatGPTや他の生成AIを用いたコンテンツも、悪用されるリスクがあります。

AI推進法では、こうしたリスクに対して具体的な罰則は設けていませんが、「不正な目的や不適切な方法によるAI活用」を対象に、国が調査・分析・指導を行うことが明記されています。

AIによる人権侵害が起きた場合の対応

AIの活用が広がる中で、差別や名誉毀損などの人権侵害も新たな懸念事項となっています。

AI推進法では、こうした人権侵害に対し、次のような対応方針が示されています。

つまり、罰則はないものの、国による是正と社会的制裁（公表）を通じて悪質行為を抑止する構造が組まれています。

ChatGPTのような生成AIが、無意識のうちに差別的・攻撃的な発言を生む可能性もあるため、事業者側の対応体制や透明性が問われる時代になってきています。

各省庁による調査・是正指導の仕組み

AI推進法では、悪質なAIの利用に対して一律で罰する制度は設けていませんが、その代わりに「所管省庁による監視と是正」が明記されています。

このように、罰則を設けずとも、行政指導や社会的評価（公表）を通じたソフトな監視体制が整備されています。

なお、ChatGPTなどのAI活用もこの対象に含まれます。たとえば、企業がAIを使ってユーザーを不当に誘導したり、フェイクコンテンツを大量生成した場合には、総務省や消費者庁などの担当省庁が調査・是正指導を行う可能性があります。

このような枠組みを通じて、AI推進法は推進と安全性の両立を目指しており、リスクを放置せず、柔軟かつ迅速に対応できる構造になっています。

罰則はあるのか？誤解されやすいポイント

AI推進法に関する報道でよく取り上げられるのが「罰則なし」という点です。

この表現だけを見聞きすると、「何をしても自由なのでは？」「AI悪用が放置されるのでは？」と不安に思う方も多いかもしれません。

この章では、そうした誤解を正しながら、現在の法体系と今後の展望をやさしく解説していきます。

「罰則なし」の意味とその背景

まず、AI推進法には刑事罰や行政処分などの直接的な罰則規定は一切含まれていません。

これは、「AIに関するリスクを見逃しても構わない」という意味ではなく、「技術の発展を阻害しないように、罰則ではなく支援と調整による推進を重視する」という政策判断によるものです。

このため、AI推進法は「推進と体制整備」に特化し、リスクの具体的対応については既存の法制度の中で適切に対処するスタンスをとっています。

現行法で対処されるChatGPTの悪用とは？

たとえAI推進法に罰則がなくても、ChatGPTやその他生成AIを悪用した行為が法律違反になるケースは多数あります。

以下はその代表的な例です。

悪用ケース	適用される可能性がある法律	想定される内容例
ディープフェイクポルノの作成	児童ポルノ禁止法・刑法・名誉毀損罪など	実在する人物の顔を無断で性的に加工・公開
詐欺にAI音声を使用	詐欺罪・私文書偽造罪など	上司を装って振込指示をAI音声で伝える
著作権保護された文章をAIで再生成	著作権法	小説や記事などを無断で模倣・公開
偏見ある出力を顧客にそのまま表示	景品表示法・消費者契約法・差別禁止法など	差別的表現や誤情報による誤認の恐れ

このように、AIを使えば何をしても許されるということは一切なく、既存の法律がしっかりと適用されます。

企業やクリエイターは、AI活用の前提として「現行法に違反しない設計・運用」が求められます。

今後の規制強化の可能性｜EU・米国との比較

2025年5月時点での国際動向をふまえると、日本も将来的にAI規制の強化に踏み込む可能性が高いと考えられます。

以下に、主要国との比較を整理しました。

国・地域	現在の対応	特徴と方向性
EU	AI規制法（AI Act）を2024年に施行	高リスクAIの審査義務、違反時の巨額罰金（最大7%）を導入
米国	州単位では規制進む（例：カリフォルニア州）、連邦では開発優先	トランプ政権下では規制より成長重視、ただし国家安全保障目的での監視あり
日本	推進法を整備し、罰則は設けずに体制整備へ	民間の自主性を尊重。リスク情報の収集・共有を重視

現時点ではAI推進法は「枠組み整備」にとどまっていますが、社会状況や国際的な要請次第では、今後の法改正や新たなAI規制法の策定も視野に入っていると考えられます。

AI推進法の私たちへの影響とは？

AI推進法は国の制度設計という大きな枠組みですが、実際には私たちの生活や仕事にも直接的な影響があります。

この章では、企業・個人・公的機関といった立場ごとに、どのような変化が起こりうるのかをわかりやすく解説します。

企業・事業者への影響｜体制整備や透明性の強化

企業やAI開発事業者にとって、AI推進法は「ルール」ではなく「戦略の方向性」を示す法律ですが、それでも以下のような影響があります。

とくに、ディープフェイクや誤情報のリスクに備えるため、開発段階から「どうリスク管理しているか」を説明できる体制が今後の信用に関わります。

また、将来的に基本計画に「説明責任」や「明示義務」などのガイドラインが盛り込まれた場合、その対応が求められる可能性もあります。

一般ユーザー（ChatGPTユーザー）はどうなる？

ChatGPTのような生成AIを使っている一般ユーザーにとって、AI推進法が生活にどんな影響を与えるのか気になるところです。

現時点では、ChatGPTの利用者が直接規制対象になるわけではありませんが、次のような「意識の変化」「使い方の見直し」が必要になるかもしれません。

今後、基本計画を通じて「安全なAIの使い方」「ユーザー向けガイドライン」が提示される可能性もあり、一般ユーザーにも新たな常識が求められる時代になるでしょう。

教育・行政・医療など公的分野での活用も加速

AI推進法により、教育・行政・医療といった公的な分野でもAIの導入が加速していくと見られています。

実際、政府は基本計画に「公共分野への積極的活用」を明記する方針を示しています。

こうした取り組みは、すでに一部の自治体・大学・病院で始まっており、AI推進法の成立によって今後さらに後押しされる流れとなるでしょう。

一方で、教育や医療など人との接点が重要な分野では、「AIに任せすぎない」という倫理的なバランスも問われていくことになります。

海外のAI規制と比較して日本はどうなのか？

AI推進法を理解するうえで欠かせないのが、世界の動向と比較する視点です。

欧州連合（EU）、アメリカ、中国など、各国はそれぞれの価値観と課題に応じてAIに関するルールづくりを進めています。

この章では、最新の海外法制度と日本の立ち位置を明確に比較しながら、日本の今後の課題を浮き彫りにします。

EUのAI規制法との違い｜義務と罰則

EUは2024年に世界初の包括的なAI規制法「AI Act」を正式に発効させました。「AI Act」はリスクに応じてAIシステムを4段階に分類し、高リスクのAIに対しては厳格な審査や説明責任、透明性の義務を課すのが特徴です。

一方、日本のAI推進法にはこのような義務や罰則は存在しません。

つまり、EUは「リスク対応と安全性の担保」に主眼を置き、日本は「開発・活用の促進」に軸を置いているという対比が明確です。

アメリカの動向｜推進重視と評価制度

アメリカでは連邦レベルでのAI規制法はまだ整備されていませんが、バイデン政権下では2023年に「AI安全に関する大統領令（Executive Order）」が発令されました。

その後、2025年にはトランプ政権に交代し、連邦レベルでは開発推進を重視する姿勢が強まっています。ただし、州単位ではカリフォルニア州を中心に独自のAI規制や倫理ガイドラインが進行中です。

日本との違いとしては、アメリカは「安全保障と経済成長の両立」にフォーカスし、企業による自己評価制度や認証制度の導入が進んでいる点が注目されます。

日本の独自スタンスと課題

AI推進法は、「世界に遅れをとっている日本がまず整備すべきは“促進体制”である」との認識のもとに設計された法律です。

そのため、日本は次のような独自スタンスをとっています。

今後は、基本計画の中で「説明責任の明確化」や「AIリスクに関する透明性指針」などが盛り込まれる可能性があり、日本も徐々に準規制的な動きへと進んでいくことが期待されています。

まとめ

「AI推進法」の成立は、日本にとってAI後進国からの転換を目指す大きな一歩です。

ChatGPTなどの生成AIが急速に普及する中で、政府が初めて方向性を法的に明示したことは、今後の社会・ビジネス・教育のすべてに影響してきます。

この法律は「罰則のない推進法」として賛否を呼びましたが、実は既存法とのすみ分けや、戦略本部・基本計画を軸にした調整体制が整備された意味はとても大きいのです。

世界各国が独自の規制を進める中で、日本がどのように信頼できるAI社会を築けるか。その基盤が、まさにこのAI推進法にあるといえるでしょう。

未来のAI活用は、ルールを知ることから始まります。今このタイミングで「AI推進法」を正しく理解しておくことが、あなた自身の大きな武器になるはずです。


最後に、「AI推進法」の重要なポイントをまとめます。

AIの進化と共に社会のルールも変わり始めています。

これからの時代を賢く、安心して歩むために「AI推進法」を知ることが、最初の大きな一歩になるはずです。